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笑顔の行方(2) [笑顔の行方]

「イエス」と「ノー」をはっきりさせる

母が私の家で暮らすようになって1ヶ月が過ぎようとしています。
母は今、2階で生活していますが、当初は「家庭塾」としても使っている1階の居間が母の部屋になるはずでした。
家の中を歩くときでさえも杖が必要な母が、2階で生活できるとは思えなかったし、それ以上に、トイレは洋式のウォッシュレットと決めている母が、1階の和式のトイレで用を足すことは不可能だと思ったからです。

段差のある和式のトイレを、段差をなくして洋式のウオシュレットに改修してもらうことも考えました。けれど、工事が大掛かりになって費用がかさむ上に、遅くても来年の夏頃には自宅に帰る予定の母のために、今この時期にトイレの改修工事を行うことにためらいを感じたのも事実でした。
それでも、母を自宅に呼ぶためには必要なことと、すぐに気持ちを切り替えて、業者に見積もりを依頼しました。
ところがどんなに急いでも、母が退院する日までに工事を完了することは無理だと言われてしまいました。

その解決策として、これまで母を担当してくれていたケアマネージャーのAさんが、トイレの改修工事が終わるまで、ポータブルのウオシュレットを購入して、使用してはどうかと提案してくれました。
私自身も、そうしてほしいと思いました。

歯の悪い母のために、家族と違う献立を考えたり、3度の食事を用意することはできるにしても、仕事も持っている私が、母の夜中のトイレに付き合うことに対しては、「ノー」だったからです。
私自身の体を守るためにも、そうしてほしいと母に頼みました。

ところが、母ははっきりと「ノー」と言ったのです。
さらに、段差のある和式のトイレを洋式トイレに改修するなど、そんな大変なことはしなくてもいいと言うのです。
その結果、1階ではなく、ウオシュレットのある2階の、これまで私が書斎として使っていた部屋が、母の居住空間になったのです。

階段が上れるかどうかが、まず第一の課題でした。
ここ4年近く、私が母の介護に実家に通うようになって以来、弟一家が住む2階には、一度も上ったことがなかったからです。
結果は上々でした。階段の手すりにつかまりながら、階段を昇ることができたからです。
夜中に、私の介助がなくても1人でトイレにも行けたし、それにも増してよかったのは、母の部屋が2階になったことで、私と母の間に程よい距離感が生まれたことです。
実のところ、母を引き取るに当たって私が最も恐れていたのは、母の私に対する過干渉でした。
神経質な母が、私のやることなすこと全てにわたって、口を出してくることはわかっていたので、私がそれに耐えられるかどうか疑問でした。
これが、母の部屋が2階になったことで、自然にクリアされることになったのです。
母は簡単には、1階に下りて来られないからです。

母がはっきりとポータブルトイレに対して、「ノー」と言ったことが、結果的にはよかったのです。
私も母に対して「ノー」を突きつけたことがあります。
母の入浴介助です。
数回は挑戦してみたのですが、ずっと続けていたら、私の体がもたないと思いました。
そこで、母が住んでいた市役所の福祉課にかけあったところ、介護保険が適用されることになって、私が住んでいる地区からヘルパーさんに来てもらえることになりました。

考えようによっては、母がポータブルに対して「ノー」と言ったことは、自分1人で夜中のトイレに行けたからよかったようなものの、私の介助が必要だとしたら、母のわがままと見なされるところでした。
また、私が入浴介助に「ノー」と言ったことも、娘としてはやさしくなかったかもしれません。
それでも、自分の中で「イエス」と「ノー」をはっきりさせことは、大切なことだと思います。
相手が誰であろうと、それが相手の気を悪くさせることや、ときに相手を傷つけることであっても、どうしてもいやなこと、受け入れられないことに対しては、「ノー」と言える自分を作っていくことだと思います。
それが出来るようになると、気持ちが楽になります。
少しずつ、試してみませんか。



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