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笑顔の行方(5) [笑顔の行方]

不安と恐れ

母が私の家で暮らすようになって丸3ヶ月が経ちました。
今は暗い顔を見せることも少なくなりましたが、当初は、不安と心配事でいっぱいでした。

階段の上り下りは案ずるより産むが易しで、1日に何度となく私の様子を窺いに下りて来るまでになりましたが、次の心配事は入浴についてでした。
自宅の湯船よりもわが家のそれは深いので、果たして入れるかどうかということが、不安でたまらなかったようです。
また、浴室には介護用の手すりもついていなかったので、その心配もありました。
暖房のない浴室の寒さに耐える自信もありませんでした。
入浴介助のヘルパーさんが、きつい人だったらどうしよう、と不安でたまらなかったのも事実です。

湯船の深さについては、浴槽内に福祉用具の「浴槽台」を設置することで解決しました。これは踏み台としても使えるし、浴槽内ではイスとしても利用できるので便利でした。
手すりは、福祉用具の浴槽用手すりを介護業者に取り付けてもらいました。
シャワーチェアーも、これまでの背もたれのないものから、背もたれとひじかけがついたものに買い換えました。
浴室の寒さは、給湯器が壊れたこともあって、エアコンとセットになっている給湯器を購入しました。

次に、服を着たままで、風呂に入る練習をしました。
母の身長や姿勢に、浴槽用手すりや浴槽台の高さや位置が合っているか、手すりを使って実際に湯船に入ることが出来るか、風呂場の暖房はどの程度効くのかなど等、ヘルパーさんが来てくれるまでに確かめておきました。
口で説明するだけでなく、実際に母自身にも試してもらって、私も大丈夫だと思ったのですが、それでも母の不安は消えません。

今でも、ヘルパーさんが入浴介助に来てくれる日は、落ち着きがなくて、風呂が沸いているか、福祉用具のセットは出来ているか、浴室暖房はつけてあるかなど、しつこいくらいに私に尋ねます。
こんな時には、数々の不安を抱えている生徒と母の姿がだぶります。
ある中学受験の生徒は、受験日前日になって、不安が昂じて電話で私に助けを求めて来ました。

何が不安なのか書き出してみるように伝えると、40個もありました。
「今晩、眠れなかったらどうしよう」「電車が遅れたらどうしよう」「試験会場でお腹が痛くなったらどうしよう」「隣の席の子が、うるさい子だったら、落ち着いて試験を受けられる自信がない」などと、次から次へと不安を並べたてました。
その一つ一つに対して、私が解決策を示してやると、生徒は「なんだ、そうなのか」と安心したようです。

“恐れ”についてですが、これも母を見ていて、不登校の生徒に通じるものがあると思いました。
母はあることに接すると、気持ちがざわつくのです。ざわつくだけでなく、恐れも感じるようで、それは自分でもどうにもならない感情のようです。
その場の空気や雰囲気が怖くて、じっとしていられなくなるのです。
不登校の生徒が、直接の原因は人であっても、学校の建物や教室や廊下までが恐怖の対象になってしまい、思い出すだけでも気持ちがざわついてしまうのと似ているような気がします。

母の場合は、高齢だしエネルギーもないので、これから避ける方法を考えたいと思っています。
不登校の生徒の場合は、しばらくは避けているにしても、誰かの力を借りながら、やがては自分なりの道を見つけて歩き出してほしいと思います。
人生は1本道ではありません。歩き始めた道がだめなら別の道を行けばいいし、回り道や寄り道をしてもいいのですから。



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