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教室の悪魔 [私が読んだ本]

東京都児童相談センター心理司の山脇由貴子さんの著書「教室の悪魔」を読みました。この本が、今、学校で起こっている“子どもたちのいじめの実態”について書いた本であることは知っていたのですが、読むのがこわくて今まで避けていたのです。

想像通り、いじめのあまりの残酷さ、陰湿さに、読んでいて気分が悪くなってしまいましたが、子ども達が置かれている大変な状況を知ることができて、その分だけ子どもに寄り添うことができるかもしれないとも思いました。
前々から思ってはいましたが、「いじめられる側に原因があるのでは」などという言葉は、子どものいじめの実態を知らない能天気な大人のいう言葉で、「強くなりなさい」と同様、決して言ってはならない言葉だと痛感させられました。

クラス全員が悪魔と化して、たったひとりの子どもを、ありとあらゆる方法を使っていじめ抜いていくのです。いじめられ側には何の問題もないのに、いじめられる理由が、いじめが進行するなかで次々に作られていってしまうのです。
そして、いじめられる側には、「みんな嘘だと知ってやっている」ということがわかっているので、反論のしようがありません。

「一度いじめが始まると、そこに存在する全員が参加することが強要される。参加しないのは裏切り者である。子ども達は、いじめという悪に全員を参加させることで、大人に発覚するのを防ぐ。そして同時に、全員を参加させることで自らの罪悪感を薄め、悪を正義に変える」とも書いてありました。
正義感を持つことなど決して許されずに、今は傍観者でいることも許されず、自分の身を守るために、感情を鈍化させ、残酷になるしか方法がないのだと言います。

もし私自身が、全員が悪魔になってしまった教室で、毎日のように無視され、馬鹿にされ、汚い言葉でののしられ、嘲笑され、暴力を振るわれ、そのうえ自分の家族まで辱められたとしたら、どうすることもできないと思います。
たった一人で、クラス全員に立ち向かうことなど不可能でしょうし、いじめを解決してくれる大人がいるとも思えないからです。
また、加害者になどなりたくないのに、自分を守るために誰かをいじめてしまったら、そんな自分がいやでたまらなくなって、学校に行けなくなるかもしれません。
世界中の誰も信じられなくなり、心に深い傷を負ったまま、怖くて外にも出られなくなるかもしれません。心の病気にだってなってしまうことだって考えられます。

暗い内容ばかり書いてしまいましたが、私はこの本は、すべての大人に読んでほしいと思いました。親として、大人として、私たちがどうあるべきか、何をしなければならないかが見えてくると思うからです。
“いじめの実態”が書いてある部分は、目を背けたくなるのですが、『見えない「いじめ」を解決するために』という副題もついているように、希望のもてる本です。

第1章は、「いじめ」は解決できるで、本の著者の山脇さんと被害者の子ども、子どもの両親が心を一つにして、冷静に、賢明なやり方で学校関係者と辛抱強く話し合い、いじめを解決していきます。子どものつらさや悲しみ、親の子どもを思う気持ち、学校と向かい合う親の姿、山脇さんの人柄や姿勢に、深い感動を覚え胸がいっぱいになりました。
第2章は、大人に見えない残酷な「いじめ」で、いじめの具体例がいくつも挙げられていました。
第3章は、なぜクラス全員が加害者になるのか?で、いじめのメカニズムが解き明かされています。
第4章は、「いじめ」を解決するための実践ルールで、親にできること、すべきこと、絶対にしてはならないことが書いてあり、役立つ内容でした。
第5章は、「いじめ」に気づくチェックリストで、子どもの日常を丁寧に見るうえからも必要な内容だと思いました。

最後に、このブログを読んでくれているあなたがいじめられている側だとしたら、この著者のように、信用できる大人もいるんだということわかってほしいと思います。
そして、前にも書きましたが、いじめられている自分を否定することはしないでください。
加害者は悪魔ですが、あなたは悪魔に魂を売り払ってはいない、クラスで たった一人の子どもなのですから、それだけでもすごいことだと思います。

また、本書にも書いてありましたが、子どもが被害者であったとしても、保護者の方は、子どもの許可なく学校には行かないということも、守ってほしいと思いました。
大切なのは、いじめっ子の悪魔たちをやっつけることでも、学校の責任を問うことでもなくて、どうしたら子どもが安心して学校に通えるようになるのか、いじめを解決するために親や教師や、そして当の子どもたちはどうしたらよいかを考えることだからです。

この本を読んで、私が明るい気持ちになれたのは、いじめの解決策についてきちんと書いたあったからです。いじめが起きた場合に、親が学校に行かないほうがいいことまではわかっていたのですが、その先の解決法についてはわかっていませんでした。それがわかったことが、私にとっては大きな前進でした。
いじめを解決することは容易なことではありませんが、真剣に解決に取り組む親や教師やその他の大人たちがいて、そこに子どもたちを巻き込んでいけば、いいのだということがわかりました。
いじめ問題を、子どもの問題として捉えるのではなく、一人ひとりの大人の生きかたが問われているのだと考えることが、求められていると思いました。



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